4人に1人は歯が溶けている?「酸蝕歯(さんしょくし)」について
こんにちは。甲府市の歯医者、降矢歯科クリニック・矯正です。
暖かくなると飲みたくなる炭酸飲料。シュワシュワとした爽快感が心地よく、ついつい飲みすぎてしまいますよね。
一方で、子どものころに大人たちから「コーラを飲むと歯が溶けるよ!」と言われ、コーラは歯に悪いというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
「コーラで歯が溶ける」といわれる主な理由は、コーラに含まれる酸が歯のエナメル質を溶かす性質を持っているということが挙げられますが、実は、普段の食事でもお口の中は酸性に傾き、歯は溶けてしまいます。
酸が原因で歯の表面のエナメル質が酸が溶けてしまった歯を「酸蝕歯(さんしょくし)」といいますが、2015年に行われた調査によると、約4人に1人が酸蝕歯であるというデータもあり、近年では歯周病や虫歯に次ぐ「第三の歯科疾患」として問題になっています。
そこで本日は、この時期特に気を付けたい「酸蝕歯(さんしょくし)」について詳しくご紹介したいと思います。
酸蝕歯(さんしょくし)とは
「酸蝕歯」とは、酸によって表面のエナメル質が溶けてしまった歯のことを言います。
通常、お口の中はpH7程度の中性に保たれていますが、エナメル質は、pHが5.5以下で溶けてしまいます。
食事をすると、飲食物に含まれる酸や、糖質をエサにして虫歯菌(ミュータンス菌)が作り出す酸によってお口の中が酸性に傾いてしまいますので、この状態が長く続くとエナメル質が溶けだしてしまうのです(脱灰)。
とはいえ、通常は、食後に分泌される唾液によってお口の中に残った酸が中和されてpHは元の中性へと戻るため(再石灰化)、脱灰されたエナメル質も自然に補修されているのですが、酸性の強い飲食物を摂取したり、だらだらと間食したりすると、この再石灰化の力がうまく働かずに酸触歯のリスクが高まってしまいます。
エナメル質が溶けると、内面にある象牙質がむき出しとなってしまうため虫歯にもなりやすく、熱い物や冷たい物が染みるといった知覚過敏の症状が出ることもあります。
酸蝕歯は初期段階では症状が出ないことも多いため、ご自身では気づいていない方も多いですが、一度、酸によって溶かされたエナメル質は、自然に元に戻ることはありません。
放っておくと、歯が黄ばんだり、表面がデコボコになるなど、審美的にも機能的にも問題が生じてしまいますので早めの対処が重要です。
- 熱い飲み物や冷たい飲み物がしみる
- エナメル質が薄くなることで象牙質が透け、歯が黄ばんで見える
- 被せ物や詰め物が外れやすくなる
- 歯の角が丸みを帯びて見える
- 歯の先端が薄く透けて見えたり、欠けたりする
- 歯の表面がくぼんだり、穴が開いたようになる
酸触歯の原因
酸触歯の原因となる酸は飲食物に含まれている酸だけではありません。
逆流性食道炎や嘔吐などで逆流した胃酸や胆汁によって歯が溶かされる場合もあります。
酸性の強い飲食物
酸性のイメージの強い炭酸飲料のほか、乳酸菌飲料や野菜ジュース、赤ワインなども酸性の強い飲み物として挙げられます。
また、身体に良いイメージのある黒酢などのお酢系のドリンクや栄養ドリンク、さらにはクエン酸やビタミンCを含んだサプリメントなども酸触歯の原因になりますので注意が必要です。
酸触歯は「脱灰⇔再石灰化」のバランスが崩れることによって起こりますので、頻繁な間食やだらだら食べ、お酒を飲んで歯磨きをせずに寝てしまう習慣がある方は特に注意しましょう。
酸性の強い飲食物を摂取した後は、お茶や水で口をすすぐなどして酸が口の中に長時間残らないようにすることで酸触歯のリスクを減らすことが出来ます。
- 炭酸系飲料 pH2.2〜3
- 乳酸飲料 pH3.5前後
- スポーツドリンク pH3~4
- りんごジュース pH3~4
- ビール・赤ワイン pH5
- レモン pH2.1
- グレープフルーツ pH3.2
- みかん・オレンジ pH3.5
- ドレッシング・ポン酢 pH3~4
- 醤油 pH4~5
食後の30分はハミガキしない方が良いって本当?
患者さんからよく「食後30分はハミガキしない方が良いと聞いたんですけど、本当ですか?」という質問をいただきます。
事実、食後30分はハミガキしない方が良いという説はいろんなメディアで取り上げられていますし、考え方としては間違いではないのですが、場合によっては食後すぐにハミガキをした方が良いケースもあります。
そもそも食後30分はハミガキしない方が良いという説は、2010年にNHKの番組で紹介されたことから広まったようですが、その番組の内容としては
象牙質は酸に弱いため、酸性の強い飲食物を摂取した後すぐに歯を磨くと象牙質が削れてしまう可能性がある。
そのため食後すぐにハミガキをするのではなく、30分ぐらい待って、お口の中が酸性から中性になって歯が本来の硬さになってから磨いた方が良い
というものでした。
つまり、「歯のエナメル質が削られて象牙質が露出している状態」で「酸性の強い飲食物を摂取した」場合には、食後すぐのハミガキを控えた方が良いというもので、エナメル質がきちんと機能している状態の方には当てはまらない内容となっています。
エナメル質が機能している場合にはむしろ、食後すぐ歯を磨くことでお口の中の汚れを落とし、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しにくい環境をつくることの方が重要で、日本小児歯科学会や日本歯科保存学会、日本口腔衛生学会といった主要な学会の見解としても、食後に時間を空けずにハミガキすることが推奨されています。
酸触歯の症状が気になる方は、
- 酸性の強い飲食物の摂取した後は、お水やお茶でお口をすすいでからハミガキする
- 毛先の柔らかい歯ブラシを使用して優しくハミガキを行う
ことに気を付けてブラッシングするようにしましょう。
胃液の逆流
胃液の酸性度はとても強く、pH値1〜1.5もあります。
そのため、逆流性食道炎や、摂食障害による過食嘔吐がある方、アルコールの過剰摂取や妊娠中のつわりにより嘔吐をくり返す場合など、胃液によって歯が溶けてしまうことがあります。
逆流性食道炎とドライマウス(口腔乾燥症)
逆流性食道炎の方はドライマウス(口腔乾燥症)も合併しているケースが多く見られます。
島根大学医学部の調査では、胃食道逆流症患者の約半数が口の渇きを訴え、37%が唾液の分泌量が減っているというデータも発表されているようです。
唾液の分泌量が少ないと酸蝕症の症状が悪化してしまうため、場合によってはドライマウスの治療や対策も必要になります。
逆流性食道炎と睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群の方も逆流性食道炎を発症する割合が高く、合併率は統計によりばらつきがありますが、およそ40~70%と言われております。
また、逆流性食道炎の患者の50%以上に睡眠障害を認めると報告されており、胸やけ症状が睡眠中に意識を覚醒させ、中途覚醒や熟睡障害を起こすと考えられています。
逆流性食道炎と睡眠時無呼吸症候群を合併している方の場合、睡眠時無呼吸症候群の治療をおこなうことで、胃食道逆流症の症状も改善されることが多くの研究により明らかにされつつありますので、場合によっては睡眠時無呼吸症候群の治療や対策も検討されるとよいでしょう。
酸触歯の治療法
初期の場合
フッ素塗布で歯をバリアする
酸触歯の症状が初期の場合、フッ素塗布により歯質を強化することでエナメル質を丈夫にし、酸に溶けにくくします。
また、フッ素には歯質強化の他、歯表面のエナメル質修復(再石灰化)、虫歯菌発育の抑制に有効といった効果もありますので、虫歯予防としても定期的に行うことをおススメします。
中期以降の場合
詰め物や被せ物をする
歯の表面の凹凸や、酸で溶けて隙間ができてしまった部分は詰め物や被せ物によって修復します。
奥歯の凹凸などはコンポジットレジン(保険適用)で対応することがほとんどですが、審美性が求められる前歯の場合、セラミック(自由診療)などの素材を選択される方も多いです。
歯の詰め物や被せ物で使用される材料は種類がさまざまあり、それぞれメリットデメリットがあるため、ご自身に合った材料を選ぶことも歯を長持ちさせるポイントとなります。
⇒当院で行っている審美歯科、かぶせ物選びのポイントについて
【まとめ】酸蝕から歯を守るには
酸蝕歯を予防するには、以下のことに気を付けるようにしましょう。
また、歯科医院で定期的に検診をおこない、歯の表面に異常がないかのチェックを受けることも大切です。
- 酸の強い飲食物を口にする回数を減らす
- 酸の強いものを食べたら、水やお茶を飲んだりうがいをしたりして洗い流す
- 酸の強い飲み物を飲む際にはストローを使う
- 食後にうがいを行い、口の中の環境を酸性から中性に戻す
- だらだらと長い時間をかけた飲食や間食をなるべくしない
- よく噛んで唾液を出す
- キシリトール100%のガムをかむ
- フッ素濃度が高い歯磨き剤を使用する
- 酸蝕歯の症状が気になる方は、毛先の柔らかい歯ブラシを使用して優しくハミガキを行う
- ドライマウスや睡眠時無呼吸症候群などの症状がある場合は早めに対策する
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